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コンピューターと精神医学
2017年11月25日 [心療内科・精神科]

   コンピューターと精神医学とは関連がないようで唐突な印象を与えるかもしれませんが、人間の脳はコンピューターと同様に情報処理システムであり、むしろかなり進歩したタイプです。最近は小学生でも学校や家庭でインターネットをしている時代ですから、人の心を考える上で心理学的な説明よりもコンピューターになぞらえた説明のほうが理解しやすいと方も多いかと思います。以下のことは大胆な推論の域を出ないのですがお許しください。

   

 現在のコンピューターと同じように人の脳がハードウエアとソフトウエアに成り立っていると仮定して、人の心の中心的な存在である自我は脳のどこに存在するのかまだよくわかっていません。それに相当するものはコンピュータでのOS(オペレーティングシステム、ウィンドウズやリナックスなど)であり、情報処理、計算、認知、記憶、ハードウエアとソフトウエアの管理などで大きな役割を果たしていると思われます。感情や意欲、創造性、自己製造能力などはコンピューターにはありませんし、自己修復能力も乏しく、人間の脳の方がはるかに優れた情報処理システムであります。意識に相当するのがメモリーであり、その中で処理する優先順位が決められています。意識の適切な切り替えができないたとえばADHDなどの障害では、メモリーのコントロールがうまくできていないと表現できます。精神医学の教科書には人間の脳がえがかれており、それぞれの部位により感情、記憶、言語、視覚、聴覚、味覚などの中枢があることが記述されています、人間の脳はコンピューターの世界で言う「分散処理」をしているのです。自我がこうした分散処理を統合しているわけです。mmからcmという単位で大まかな場所はすでにわかっていますが、それよりす゜っと小さなレベル、神経回路の内容に関してはまだよくわかっていません。

 

 人間の脳の神経伝達物質(ホルモンの一種)であるセロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンなどが精神科領域での薬物療法上とても重要ですが、精神疾患のそれ以外の要因としてコンピューターの電子回路に相当する脳の神経回路に注目する必要があります。脳の情報処理は神経伝達物質と神経回路によってなされていますが、神経回路の内容・仕組み・働きについてはまだあまり議論されていません、細胞レベルの話であまりにも小さいので(μmの世界)まだよくわからないというのが現状だと思います。今後薬物療法がどんなに進歩してもどうしても改善しない部分、後遺症を残す理由がそこにあると思われます。薬物療法によって神経伝達物質の量を調整できますが、その情報処理の前段階として神経回路の内容までは変化させないということです。精神療法では神経伝達物質や神経回路の内容がどのように変化するかについてはほとんど考慮されていません。神経回路の内容を修正するような手段(コンピューターの世界では当然存在しますが)を人類はまだ手にしていません、「ウィンドウズの更新」のようなものはまだ発見されていないのです。神経回路の問題が人格上の問題、精神疾患の後遺症に大きく関係していると思われます。

   

 心のケアで多種多様な治療法があると言われながらも実際の臨床場面では効果に乏しいという現実はこうした理由が背景にあると思われます。コンピューターの世界でもユーザーデータは簡単に追加したり、削除できますが、アプリケーションプログラムになると修正困難で、OSのレベルでは特殊な専門家でしかできません、ハードウエアの修理も交換になります。これと同じように人の心も修正のしやすさにレベルが存在します。記憶することは簡単にできますし、英語の勉強をしたり、スポーツの練習をしたりするとすぐに上達しますがそれは脳の中で新たに神経回路が作られる仕組みがあるからだと思います。しかし、自我、性格というものは精神療法や外部からの刺激ではなかなか変わりません(もちろん年齢に伴う変化程度のものはあります)、とても重要な部分ですからやすやすと変化してはいけないのでそうならないようなプロテクトしている仕組みが存在しているからではないでしょうか。プロテクトできずに変化してしまうことが統合失調症(精神分裂病)等の後遺症に相当する部分ではと思っています。ウィンドウズが一般ユーザーには簡単には変更できないのと同じです。人格を変える、能力を伸ばす、生まれ変われるなどと宣伝する治療者も多いのですが一時的な効果で結局は元のままということがほとんどだと思います。患者さんはまじめな方が多く、治療者の気持ちや願望を察して「もう良くなりました」と言う事が多くそれを治療効果とすることは早合点です。人格面では長い目で見てじっくり付き合う必要があります。

   

  うつ病は神経伝達物質の問題が大きな割合を占めますので薬物療法がとても有効であり、人格障害は神経回路の内容そのものに問題があるためなかなか有効な治療法がなく、統合失調症はその両方に大きな問題が生じるため薬物療法は有効ですが大半の患者さんが後遺症を残します。痴呆(認知症)においては脳そのもの、ハードウエアの媒体そのものが萎縮し障害されるためある程度進行すると有効な治療法がないと言ったところが現状ではないでしょうか。コンピューターのようにプログラムを書いたり電子回路を作ったりする感覚で、神経回路の内容、配線を直接適切に操作できるテクノロジー・ツールが発見されれば精神科領域での治療が飛躍的に進歩すると思います。


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